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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)12371号 判決

原告

パレ・エテルネル管理組合

右代表者理事

萩原元吉

原告

関根留代

外三五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

宮川典夫

高池勝彦

被告

セイユウ不動産株式会社

右代表者代表取締役

小井戸八重子

右訴訟代理人弁護士

太田孝久

東徹

主文

1  被告を東京都新宿区四谷四丁目二八番二〇マンション「パレ・エテルネル」の管理者から解任する。

2  原告パレ・エテルネル管理組合の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の、その余を原告パレ・エテルネル管理組合の負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一別紙当事者目録記載の、原告パレ・エテルネル管理組合(以下「原告組合」という。)を除く、その余の原告ら(以下「区分所有原告ら」という。)

主文1と同趣。

二原告組合

1  被告に対し、

(一) 別紙物件目録一記載の一階管理室からの退去・明渡し、並びに

(二) 別紙物件目録二記載の管理用具等の引渡し

を求めるとともに、

(三) 八六三万円の支払いと

(四) 二〇五一万七五〇〇円及び内金六三六万七五〇〇円に対する昭和五七年一二月二七日から、内金八四九万円に対する昭和五八年一二月二七日から、内金五六六万円に対する昭和五九年一二月二七日から各支払済みに至るまで年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  区分所有原告らは、東京都新宿区四谷四丁目二八番二〇号パレ・エテルネル(以下「本件マンション」という。)の別紙当事者目録の各肩書記載の各室の区分所有者である。

本件マンションは、被告が建築し、分譲したもので、昭和五七年三月、被告がこれを分譲するに際し、被告と区分所有原告らを含む買受人全員との間で、本件マンションの共有部分の管理に関する管理規約(以下「本件管理規約」という。)が合意された。右規約により、被告を管理者とし、被告に対し、次の管理業務が委託された。

(一) 月額で、専有部分面積(販売面積)一平方メートル当たり約三五〇円の管理費及び専有部分面積一平方メートル当たり約三五円(管理費の一〇パーセント)の補修積立金(以下「管理費等」という。)の各区分所有者からの徴収

(二)(1) 共有部分の光熱費の支出

(2) 共有部分の清掃

(3) エレベーターの整備の維持

(4) 給排水設備の保守

(5) 消火設備の管理

(6) 管理費の維持管理

(7) その他、本件マンションの維持管理に必要な事項

なお、本件管理規約において、管理費等は毎月二六日限り翌月分を支払い、その遅延があるときは、年一八パーセントの割合による遅延損害金を請求する旨定められている。

2  被告は、本件マンションの未分譲部分の区分所有者でもある。

被告は、その元代表取締役である小井戸正雄が代表取締役に就任している率然産業株式会社に本件マンションの管理を委託し、更に右会社は、クリンパル株式会社にこれを委託している。

また被告は、管理者として、別紙物件目録一記載の管理人室(以下「本件管理人室」という。)や同目録二記載の管理用具等(以下「本件管理用具」という。)を占有し、合計八六三万四二六円の預金債権(以下「本件預金」という。)を有している。

二原告らの主張

1  被告には、以下のような職務を行うに適しない事情がある。

(一) 被告には未分譲部分の区分所有者として管理費等月額七〇万七五〇〇円の支払義務がある。

しかるに被告は、昭和五七年四月から昭和五九年八月分までの合計二五〇一万七五〇〇円の管理費等を支払っていない。

(二) 被告は、貯水槽や高置水槽の清掃を行わず、屋上排風器・パイプなどの塗装を剥げたままに、あるいは店舗裏ダクトを汚れたままに放置したり、各階の開放廊下の定期清掃、排水管の定期点検・清掃をほとんど行わず、大雪に際し雪かきも行わない等、管理業務を懈怠している。

(三) また被告は、昭和五七年三月一五日から昭和五八年三月三一日までを決算期とする決算報告を四か月後の同年七月一二日に区分所有者に配布し、それも杜撰なもので、区分所有者の指摘により、ようやく同年一一月八日になって詳細な報告をした。

(四) その他、被告は、本件マンションの分譲の際に、区分所有原告らを含む譲受人に二四時間の管理体制をとる旨約しておきながら、夜間管理人が本件マンションに駐在していないことが多く、本件マンションの管理を委託している率然産業株式会社には高額の委託料を支払い、右会社は、更に低額の委託料で管理をクリンパル株式会社に委託し、しかも区分所有者らに諮ることなく、右管理料を昭和五七年一二月に月額六二万円から九〇万円に引き上げ、これを同年一〇月に遡って支払っている。

原告組合には、区分所有原告らを含む本件マンションの区分所有者の有志が加入しており、その数は、平成二年二月二八日現在で四九名・所有面積4177.29平方メートル(本件マンション全体に対する加入率は、加入者数で77.8パーセント、所有面積割合で68.3パーセント)であり、これらの者は、本件訴訟を理解して加入しているところ、被告は、原告組合加入者に対し、被告所有の本件マンションの付属駐車場の使用契約の解約をほのめかし、原告組合からの脱退を勧誘している。このように、区分所有原告らと被告との間では、信頼関係が破壊されている。

2  そこで区分所有原告らは、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)二五条二項に基づき、原告の解任を求める。

3(一)  原告組合は、昭和五八年一〇月二四日、臨時総会を開催し、原告組合において管理費等の徴収を含む本件マンションの管理を行うことを目的とする規約を採択した。

(二)  被告が解任された場合、管理者の不在を避けるため、本件マンションの管理を目的として区分所有の有志が設立した原告組合が本件マンションの管理に当たる必要がある。

4  そこで原告組合は、被告に対し、本件管理人室の明渡し、本件管理用具の引渡し、及び本件預金(八六三万四二六円)の支払を求めるとともに、未払管理費等合計二〇五一万七五〇〇円と内金六三六万七五〇〇円(昭和五七年四月分から同年一二月分)に対する支払期日後である同年一二月二七日から、内金八四九万円(昭和五九年一月分から同年一二月分)に対する支払期日後である同年一二月二七日から、内金五六六万円(昭和五九年一月分から同年八月分)に対する支払期日後である同年八月二七日から各支払済みに至るまでの年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

三被告の主張

1(一)  本件管理規約上、管理費等の支払義務は、専有部分の引渡しの時から発生すると定められているから、本件マンションの分譲業者で、当初から専有部分を占有している被告には、その支払義務はない。

(二)  分譲マンションでは、分譲業者には、完全に売却されるまではその未分譲部分について管理費等を徴収しない旨の商慣習がある。

2(一)  仮に、被告に管理費等の支払義務があるとしても、被告の不払は本件管理規約を誤解していたためであり、被告は、昭和六〇年四月から管理費等を支払っており、未払であった管理費等も昭和六一年一二月に支払った。

(二)  区分所有原告らのうちの大瀬実ら一六名のものは、被告に対し、管理費等を支払っていない。

(三)  したがって、管理費等の不払は、被告の解任事由とならないか、自ら管理費等を支払わないで、被告の解任事由として主張することは信義則に反する。

四争点

1  被告に管理費等の支払義務があったか。

2  被告に管理者として職務を行うに適しない事情があるか。

3  原告組合に被告に対し本件管理人室等の明渡しなどを求める権利はあるか。

第三争点に対する判断

一争点1について

区分所有者は、複数の区分所有権関係の発生した時期、すなわち区分所有建物の譲渡により区分所有権が発生し、区分所有権の登記等により区分所有建物であることが客観的に認識される状態になった時から、法令、規約、区分所有者の団体の集会で定めるところに従い、共有部分の管理費等を支払う義務を負うと解すべきである。右の時期に至ったならば、分譲業者であっても、未分譲の区分所有権利を所有する以上、共有部分の管理費等を支払わねばならないのは当然である。被告は、分譲業者には管理費等の支払が免除される旨の商慣習があるというが、右の慣習の存在を認めるに足る証拠はない。

前記の争いのない事実によれば、昭和五七年三月には、本件マンションの区分所有権関係が客観的に発生し、本件管理規約にも管理費等の支払に関する規定が存在していたことが明らかである。そして、本件管理規約二一条一項後段には、区分所有者がその専有部分の引渡しを受けた月から管理費等の支払義務が生ずる旨定められているが、これは、管理費等の徴収の便宜上、引渡しを受けた月を基準にしたものと解せられるうえ、被告は、本件管理規約の成立当初から未分譲の区分所有権を所有し、かつそれを占有しているのであり、現に被告は、昭和五七年三月以降も本件マンションの一階に分譲のための事務所を構え、来客の都度未分譲の室に客を案内し、共有のエレベーターや廊下等を使用していたことが認められる(〈証拠略〉)から、右規約の定めを根拠に管理費等の支払義務を否定することはできない。なお、証人小井戸(昭和五七年三月当時被告の代表者で昭和五八年五月二五日辞任・〈証拠略〉)も、前記の規約の条項を盾に管理費の支払義務はないとしながらも、補修積立金は未分譲であっても支払うべきと思う旨証言している(第一回)。

二争点2について

1(一)  被告は、昭和五七年三月以降、本件マンションの管理業務を率然産業株式会社(代表者小井戸。当時被告の代表者でもある。)に委託し(委託料同年三月・四月分九三万円、五月分から九月分は六二万円、一〇月分以降九〇万円)、同社は更に本件マンションの内外の清掃等の業務をクリンパル株式会社に再委託し(委託料月額五四万円)、右会社の従業員が午前八時ころから午後五時ころまで右業務に携わるかたわら、夜間は管理人室の隣にある宿直室に宿泊していた。

しかし、右従業員は午後五時以降不在がちで、夜間部外者が本件マンションに入り込んだり、区分所有者らとの連絡がうまくいかないことがしばしばあったし、区分所有者らの管理に関する希望もすぐには被告に通じないこともあり、被告側のその対処も遅れがちであった(例えば、除雪の遅れや上下水道の水漏れに対する処置。)。そのため、区分所有原告らの間では、分譲の際に被告が高級マンションにふさわしい管理体制を取ると約しながら(現に当時の管理費の専有部分の坪当たり月額一五〇〇円は相場より高額であった。)、それを果たしていないという不満があった。

(二)  本件管理規約によれば、管理者たる被告は、毎年三月末に(会計年度は毎年四月一日から翌年三月三一日)、当該年度の受託業務報告事項並びに収支状況を区分所有者に報告することになっている(一三条・三一条・三二条)。しかし被告は、昭和五七年度の右報告をなかなかせず、昭和五八年六月ころにようやくその報告をしたものの、内容が簡略で、意味不明な点もあった。そこで区分所有原告らが詳しい報告を被告に再三求めたが、被告はこれに応ぜず、右原告らが被告宛に送った「会計監査請求書」(同年九月二四日付及び一〇月三日付。〈証拠略〉)も受領しなかった。そこで区分所有原告ら有志は、同月二四日に本件マンションの管理を行うことを目的とした原告組合を結成した。他方被告は、同年一〇月二五日付でより詳細な「決算書」を作成し、これを同年一一月八日ころ区分所有者に交付したが、なお特に被告の管理費等の不払(昭和五七年三月から翌五九年三月まで二一室分合計九五〇万九三〇〇円とそれ以降の分)について納得できなかった右原告らは、一一月一一日に右報告に関し被告の説明を受ける集会を開き、被告代表者の出席を求めたところ、被告の取締役柴田善三郎が出席したが、結局納得のいく説明がなく、柴田は一九日までに回答すると約しながら、やはり回答しなかった。

(三)  こうして、被告は依然管理費等の支払義務はないとして、それを支払わず、昭和五九年一〇月三一日に原告らは本件訴を提起したが、その後、区分所有原告らは、原告組合に加入していない区分所有者の加入を求めたところ、約二〇名の者が新たに原告組合に加入した(加入者は区分所有原告らを含め四九名、その所有面積約四一七七平方メートル。本件マンション全体に対する加入者率は、加入者数で77.8パーセント、所有面積割合で約六八パーセント)。しかるに被告は、その加入した一・二名の者に対し、本件マンションの付属駐車場(被告所有)の利用契約の解約をほのめかして、その脱退を勧誘した。

(四)  なお、被告は、昭和六〇年四月分から管理費等を支払うようになり、また昭和六一年一二月二五日に、前記未払の管理費等九五〇万九三〇〇円を含め、昭和五八年四月から昭和五九年三月までの一五室分八三一万七三〇〇円及び同年四月から昭和六〇年三月までの一四室分六七八万一二〇〇円の合計二四六〇万七八〇〇円を未払管理費等として本件マンションの管理者としての被告の口座に入金したが、遅延損害金分は入金していない。

(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)

2 以上の事実によれば、区分所有原告らに当初から被告の管理体制に対する不満があったうえに、管理者としての義務である業務及び収支状況報告の遅れ、不備並びに説明の遅延といった対応の杜撰さに加え、管理費等を徴収する義務のある管理者であり、かつその徴収を受けるべき義務者としての区分所有者である被告が、理由もなくその支払義務がないと独断した態度が区分所有原告らの不信を一層募らせたものといえる。しかも原告組合に加入している者も約七〇パーセントもおり、他方被告の新規加入者に対する前記のような脱退の勧誘行為をも考えると、管理者である被告と区分所有原告らを含む多くの区分所有者との信頼関係はもはや無いと評価すべきである。

被告は、区分所有原告らのうちに被告に対し、管理費等を支払っていない者がいるから、被告の管理費等の不払を理由に解任請求するのは信義則に反すると主張する。確かに〈証拠略〉によれば、昭和五九年四月以降被告主張の一六名の者が被告に対する不信感から管理費等を被告に支払わず、原告組合が管理するその口座に入金していることが認められるが、それはむしろ被告の管理費等の不払や前記報告及び事後処理のまずさ等に起因するものであるから、区分所有原告らの主張が信義則に反するとはいえない。

また被告は、その不払は本件管理規約の誤解に基づくと言うけれども、前認定の事実から明らかなとおり、区分所有原告らから昭和五八年六月以降に既にその理由の当否を指摘されていたことであり、その点を善処せず、昭和六一年一二月になってようやく未払管理費等を支払った(しかも遅延損害金は不払い)のであるから、単なる誤解と片付けることは困難である。

以上要するに、被告には管理者として業務を行うに適しない事情があると解せられる。したがって、区分所有原告らの解任請求は理由がある。

三争点3について

1  昭和五八年改正前の区分所有法に基づく区分所有者の団体は、右改正附則により改正後の同法に基づくその団体と認められる。ところで、原告組合は、先に認定したとおり、本件マンションの区分所有者ら有志で組織された団体に過ぎず、同法にいう団体とは異なる。したがって、同法三条一項の管理を行うための団体とはいえないから、被告が管理者から解任されたとしても、その後当然に原告組合が本件マンションの管理者となるものではない。区分所有者全員の集会で、改めて具体的に誰を管理者とするかを決すべきである(本件管理規定二九条)。

2  原告らは、被告の解任後本件マンションの管理を行う者が不在となるというが、管理者の解任は委任の終了であり、新たに管理者が決まるまでは、被告に管理継続義務がある(区分所有法二八条・民法六五四条)。

したがって、原告組合には、今現在被告に対し本件管理室等の明渡し等を求める権利はない。

四結論

以上のとおり、区分所有原告らの請求は理由があるが、原告組合のそれは理由がない。

(裁判官大澤巖)

別紙物件目録

一 (一棟の建物の表示)

所在 東京都新宿区四谷四丁目二八番地二〇・同番地二九・同番地四〇

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一三階建

床面積 一階 935.53平方メートル

二階 822.61平方メートル

三階ないし一〇階 561.96平方メートル

一一階及び一二階 533.42平方メートル

一三階 515.42平方メートル

のうち、一階管理人室(厨房を含む約27.72平方メートル。別紙図面斜線部分)

二 本件マンションに関する

管理規約原本

設計図一式(完成図・設備図等)

備品台帳

金銭出納帳、補修積立金勘定元帳、管理費勘定元帳、銀行勘定元帳及び什器・備品

元帳

管理業務日誌

保守点検業者名簿

保守点検マニュアル(電気、上下水道、エレベーター)

預金通帳

① 協和銀行新宿西口支店定期預金パレ・エテルネル代表者小井戸正雄〈口座番号略〉

② 三菱銀行新宿支店定期預金 パレ・エテルネル代表者小井戸正雄

③ 協和銀行新宿西口支店普通預金パレ・エテルネル代表者小井戸正雄〈口座番号略〉

④ 同栄信用金庫新宿支店 パレ・エテルネル代表者小井戸正雄〈口座番号略〉

消防防災設備(消防検査証、消火器全部、消火用ホース及びその付随器具)

入居者名簿

管理に必要なカギ(管理人室にあるキーボックス一式)

① マスターキー三本

② 水道メーターボックス用

③ 電気ボックス用

④ 高置水槽用

⑤ 受水槽用

⑥ エレベーター用

⑦ 屋上キュービルク

⑧ 電話ボックス用

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